世界銀行統計によれば、日本の貿易依存度(輸出入合計の国内総生産に対する比率)は2011年の実績で28.58%。これは、180ヵ国中175位、世界平均の52%のほぼ半分に過ぎない。これが、“貿易立国日本”の実態である。

日本の国内市場は、少子高齢化、人口減少の中で、今後、縮小圧力が加わることは明らかであり、その一方で、アジアの新興経済を中心に世界貿易は相互依存を一段と深めながら拡大を続けるとみられる。こうした中で、日本が目指すべきことは、アジアの成長を取り込むことによってダイナミズムを取り戻すことであり、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加はその一里塚となる。

需要は市場の拡大を通じて喚起される。最も簡単に市場を拡大させるのは貿易自由化である。多くの国と取引をすれば、お互いに輸出と輸入が増え、市場規模が拡大する。貿易自由化が日本にとって重要であり、それによって多くの国民が恩恵を受けることは明らかである。それでは、なぜ、TPPへの参加をめぐって、日本国中で大きな論戦が繰り広げられているのか。

伊藤元重・東大教授によれば、貿易自由化の利益は国民全体に薄く広がる。しかし、貿易自由化によって生じる損失は一部の人々に集中してしまうために、貿易自由化には賛成だが声を上げないサイレントマジョリティと、貿易自由化の反対を大きな声で訴える一部の利害関係者という構図をもたらしているからである。TPP参加を巡るJA(農業協同組合)、全中(全国農業組合中央会)といった農業団体による激しい反対活動がその代表である。

しかし、日本の農業が抱える問題は、TPPによる関税障壁の撤廃が日本の農業をつぶすことに繋がるかどうかという問題ではない。農業は残さなければならない。これは自明である。真の問題は、硬直化した農業の仕組みを現在のまま温存して衰退を受け入れるのか、あるいは大胆な改革を進めて未来に期待の持てる農業の姿に変えていくのかということである。

日本の農産物価格は世界でも有数の高さである。高い関税などでその高価格を支えている(コメの場合は、減反による高価格維持が農政の中心となってきた)。それでも多くの農家が農業だけでは食べていけないために兼業農家とならざるを得ず、政府は、そうした兼業農家を補助金などで必死に支えようとしている。こうしたシステムが構造的な問題を抱えているのは明らかであり、それを放置しておけば、遅かれ早かれ農業の衰退は避けられない。

こうした構造改革はそれ自体で進めるべきものでTPPとは切り離すべきだという意見もあり、それはそれでもっともな意見ではあるが、現実には外圧がないと大きな構造改革が進まない。TPPへの参加は、60年代にOECD加盟のために自動車などの製造業が改革を迫られたのと同様に、農業システムの構造改革にタイムリミットを突きつけたという意味で大きな意義がある。

TPPへの参加を、農業など硬直化したわが国システムの構造改革への突破口として、アベノミクスの成長戦略につなげて行かねばならない。

大橋 善晃
モークワン顧問
日本証券経済研究所リサーチフェロー
日本証券アナリスト協会検定会員
(元日本証券アナリスト協会副会長)