アベノミックス第三の矢「成長戦略」の基軸は、思い切った構造改革による日本経済の再生にある。構造改革は創造と破壊の両面を持つ。セーフティネットの用意はもちろん必要だが、痛みを伴う改革を断固として推進する決意と施策がなければ、目標達成への道筋は見えてこない。

6月14日に閣議決定されたアベノミックス第三の矢である成長戦略「日本再興戦略~JAPAN is BACK~」の第一の柱は「産業再興プラン」である。産業の新陳代謝の促進、人材力強化・雇用制度改革を主要目標として掲げた。

産業の新陳代謝については、デフレ脱却への期待を一時的なものに終わらせないためには、企業に眠る膨大な資金を将来の価値を生み出す投資へと向かわせる必要がある、という認識に立ち、政府として、企業経営者に大胆な新陳代謝や新たな起業を促し、それを後押しするために、設備投資促進策や新事業の創出を従来の発想を超えたスピードと規模感で大胆かつ強力に推進する、としている。

雇用制度については、新陳代謝を加速させ、新たな成長分野での雇用機会の拡大を図る中で、成熟分野から成長分野への失業なき労働移動を進めるため、雇用政策の基本を行き過ぎた雇用維持型から、労働移動支援型へと大胆に転換する、とした。このため、政府として、ハローワークの情報や業務を思いきって民間人材ビジネスに開放し、民間が保有するノウハウを活用する形で、スキルアップ研修、ふさわしい職とのマッチングなどを支援する。

また、女性の労働参加の拡大や、経営への参加の促進は、これまで以上に多様な価値観をとりこむ新たなサービス・製品の創出を促進し、社会全体に活力をもたらすほかに、家庭の単位で見ても、ダブルインカムが実現されることで、家計所得と購買力が増大し、景気の好循環が動き出し、豊かさが実現できるようになるという認識のもとに、保育の受け皿の整備などにより夫婦が働きながら安心して子供を育てる環境を整備すると同時に、育児休業後の職場復帰の支援、女性の積極登用などを通じて、女性の労働参加率を抜本的に引き上げることを目指す、としている。

第二の柱は「戦略市場創造プラン」である。健康長寿産業を創り・育てる、農林水産業を成長産業にする、エネルギー産業を育て世界市場を獲得することを目指す。
  
医療・介護・保育などの社会保障分野や、農業、エネルギー産業、公共事業などの分野は、民間の創意工夫が生かされにくい分野といわれてきたが、これらの分野は、やり方次第では、成長分野へと転換可能であり、また、良質で低コストのサービスや製品を国民に効率的に提供できる大きな余地が残された分野であることを意味する。政府は、これまで民間の力の活用が不十分であった分野や、そもそも民間が入り込めなかった分野で規制・制度改革と官業の開放を断行し、「規制省国」を実現する。それだけにとどまらず、これらの分野に民間の資金、人材、技術、ノウハウを呼び込み、新たな日本経済の成長エンジン、雇用機会を提供する産業に仕立て上げることを目指す、としている。
  
第三の柱は「国際展開戦略」である。TPPなどを通じた経済連携を一段と進め新興国の成長を最大限取り込むこと、成長が見込まれる世界のインフラ市場を官民一体で獲得すること、クールジャパンの推進、「国家戦略特区」を活用した対内直接投資の活性化、を目標として掲げている。
  
この「日本再生戦略」の評価については、包括的な成長促進策としての方向性は評価できるが、高い目標を掲げる一方で、目標実現に向けての具体策が小粒で力不足だという見方が多く、とりわけ、農業分野、雇用分野、医療・介護・保育・年金などの社会保障分野における一層の構造改革、規制改革、制度改革を求める声が高い。
   
参院選を前に痛みを伴う政策を織り込みにくいということがあったとしても、参院選後を睨んで目標実現に向けての具体策を早急に詰めることで、「成長戦略は力不足」という評価を払拭する必要がある。
  
このたび、政府は、産業競争力会議の下部組織として、「農業」「雇用」「医療・介護」の三つの部門別会合を設置する方針を固め、9月にも「日本再興戦略」の進捗状況の検証作業に着手すると共に、積み残した課題に本腰で取り組む組織を設ける方針を固めたと報じられたが、積み残した課題を先送りすることなく、早急に、一段と踏み込んだ構造改革への取り組みに着手してもらいたいものである。

大橋 善晃
モークワン顧問
日本証券経済研究所リサーチフェロー
日本証券アナリスト協会検定会員
(元日本証券アナリスト協会副会長)