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2014年5月7日

「柔軟で多様な働き方」の実現を目指して

雇用制度改革は、安倍政権による成長戦略の重要な柱の一つである。

わが国では、雇用が安定し処遇も高い反面、働き方の拘束性が高く長時間労働等の課題がある正社員と、雇用が不安定で処遇が低く、能力開発の機会も少ない非正規雇用の労働者という働き方の二極化が、労働・人材分野における大きな問題となっている。

産業競争力会議・雇用人材分科会の中間整理によれば、従来の「日本的雇用システム」は、企業と個人が包括的な雇用契約を結んで「就社」する「メンバーシップ型」の働き方を基本とするもので、「終身雇用・長期雇用」、「年功的昇進・賃金体系」、「企業別労働組合」をその特徴とし、働き手は、「終身雇用」と引き換えに、長時間労働、配置転換、転勤命令等の「無限定」な働き方を受け入れてきた。しかし、1990年代以降のわが国経済の長期停滞の中で、このメンバーシップ型の働き方を基軸とする雇用システムを維持するだけでは、働き手の多様化や企業を取り巻く環境変化に伴ってきた様々な課題に十分に対応することが出来なくなってきている。

正社員か非正規かという硬直した現状を変えるために、産業競争力会議が打ち出したのが「多様な正社員(限定正社員)」という「働き方の改革」である。正社員の「無限定」な働き方に加えて、「勤務地や労働時間、職務内容を限定する正社員(限定正社員)」という「限定的な働き方」を導入することによって、正社員か非正規かという硬直した現状を改革し、正規・非正規の「カベ」にとらわれない多様な雇用機会を作り出すことで、「柔軟で多様な働き方ができる社会」の構築につなげようというものである。

「限定正社員」という雇用制度の導入には、正社員の柔軟で多様な働き方の実現を目指すことに加えて、勤務地や労働時間を限定し、そうした限定要因がなくなれば解雇できることにして、非正規雇用の労働者から正社員への転換を企業に促すというねらいがある。さらに、限られた職務に専念できることで自らの専門性を高め、それを客観的に評価する仕組みを労働市場に作ることが出来れば、雇用の流動性を高めることにもつながる。

政府は、「多様な正社員」の普及・拡大に向けて、厚生労働省内に「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」を立ち上げ(平成25年9月)、多様な正社員の導入が実際に拡大するような実効性のある方策を講ずべく検討を開始した。具体的には、わが国の雇用ルールを踏まえた多様な正社員について、関連する就業規則の規定例等を含めた、明確なモデルを複数提示することを目指し、平成26年央を目途に結論を得るとしている。

「限定正社員」という雇用制度が働く者にとって使いやすいものになるかどうかはこのルール作りにかかっている。「限定正社員」という雇用制度の導入が、安易な解雇や賃金カットに利用され、職場での差別につながる様なことがあってはならない。それだけに、ち密な制度設計が必要であるばかりではなく、こうした改革を推進していくためには、政労使が信頼関係に立ってそれぞれの役割を果たしていくことが重要であり、それなしには絵に描いた餅になりかねない。実効性のある方策の策定は容易ではないが、しっかりとした議論を重ねて、出来るだけ早く検討結果を示して欲しい。

大橋 善晃
モークワン顧問
日本証券経済研究所特別嘱託調査員
日本証券アナリスト協会検定会員
(元日本証券アナリスト協会副会長)

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