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2016年12月8日

動き始めた働き方改革

働き方改革の議論が本格化している。

政府は、9月27日、首相官邸で「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)の初会合を開催、その席上で、首相は「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」「賃金引き上げと労働生産性の向上」「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」など9項目(注1)を検討課題として取り上げることを表明した。

日本では世界でも有数のペースで少子高齢化が進んでいる。働き手の人口の減少が成長の頭を押さえる要素になりかねない。若者や高齢者、女性が高い意欲を持って柔軟に仕事につけるようにし、生産性を高めなければならない。首相は、働き方改革実現会議において、「働き方改革は、第3の矢、構造改革の柱だ。もはや先送りは許されない」と指摘、今年度中に具体策を盛り込んだ実行計画を策定し「スピードを持って国会に関連法案を提出する」と語っている。

働き方改革の柱は、正社員と非正規社員の賃金格差を埋める「同一労働同一賃金」である。非正規社員の賃金水準は正社員の6割弱にとどまるとされている。こうした現状を踏まえて、政府は、12月に予定されている第5回会議において、正社員と非正規社員で賃金差がある場合に、どのような差が非合理的で、どのような差は問題とならないか、実例を含んだ政府のガイドライン案を提示し、その上で、その根拠となる法改正の在り方について審議を行うとしている。

長時間労働の是正もカギとなる。労働基準法で定められている労働時間は1週40時間、1日8時間であるが、労使で特別な協定(36協定の特別条項)を結べば残業時間を事実上、無制限に延ばすことが可能であり、これが男性の育児参加や女性の社会進出が進まない理由のひとつとなっている。政府は、労働基準法を改正し、労働時間に上限を設け罰則規定を設けることを視野に入れているが、そのためには、36協定の見直しが焦点となる。

さらに大切なのは、急な技術革新や産業構造の変化に取り残された人々の再起を応援する政策である。新たな仕事での再出発を志す人材の技能や教育訓練の場を充実させることが急務だ。転職・再就職支援や人材育成について、首相は、「子育て中の女性の復職・再就職の問題があります。我が国では正社員だった女性が育児で一旦離職するとパート等の非正規社員で働き続けざるを得ないことが多いのは事実であります。労働生産性の向上の点でも問題があります。女性がライフステージに応じて、再就職しやすい環境を整えるため、私はリカレント教育(注2)に注目したいと思います」(第3回働き方改革実現会議)と述べているが、再挑戦の機会を増やすことが人材力の向上につながるのはいうまでもない。実効性のあるシステムの構築が不可欠である。

一方、残業の撲滅や労働者の生産性の向上につながると期待された「脱時間給制度」や、成長産業へ労働力を移す後押しとなることが期待された「解雇の金銭解決制度」の導入は、国会審議や政府内の議論が停滞したまま、検討課題から外され、実現の目処が見えないままとなっている。こうした痛みを伴う政策を回避して、働き方改革の実現は可能なのだろうか。

(注1) 働き方改革実現会議における9つの検討課題

  • 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  • 賃金引き上げと労働生産性の向上
  • 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
  • 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
  • テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
  • 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
  • 高齢者の就業促進
  • 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
  • 外国人材の受入れの問題

(注2)リカレント教育 recurrent education
OECD(経済協力開発機構)が提唱した生涯教育構想のひとつ。リカレントは、「循環する」ことを意味し、従来の教育が学校から社会へという方向で動いていたのに対し、一度社会に出た者の学校への再入学を保障し、学校教育と社会教育を循環的にシステム化することを課題とする。
文部科学省(文部省)では、「リフレッシュ教育」という用語で、社会人・職業人が新たな知識・技術を修得したり、陳腐化していく知識を再生するため、大学院や大学等の高等教育機関において行う教育を推進している。リフレッシュ教育はリカレント教育の一部であり、職業人を対象とし、職業上の知識・技術を内容とし、大学院・大学等で実施される教育をさすとされる。「大学制度改革」の中でも、リフレッシュ教育を意識した夜間大学院、社会人特別選抜入試などの試みが行われている。(人権啓発用語辞典Weblio辞書)

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